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コラム「灸術について」灸と俗説

昔、鍼灸界にいろいろな俗説が流布していました。

「寒中にお灸をすえてはいけない」

これは、もう昔の話しになります。
私が子供の頃(昭和40年~50年代)、土屋灸術院は2代目の母が治療院をしていました。
その当時、1年の中で1番長く休むのが年末年始の休みでした。母が12月29日~1月10日まで休むことが子供の私にとっては楽しみでした。ですが、また、そんなに休んでいいのかしら?という疑問もありました。長期に休むと休み明けは大変なのでは?と。ところが、休み明け・・・大して忙しくありません。閑散としていました。その次の日もです。あるとき母に「どうしてこんなに暇なのか?」と聞いてみました。母から帰って来る答えは、「寒だからねぇ」というばかりで、私にはさっぱりわかりません。さらに「子供のおまえがそんな心配しなくていいんだよ。」というだけでした。
私が子供の頃は、1月中は閑散としていたことを覚えています。ところが、節分が終わり立春になると患者さんがどっと押し寄せたのです。

これはどういうことかというと、1月になると暦の上で寒の入りとなって2月3日の寒明けまでの30日間を寒中といいます。この寒中期間は、寒稽古という柔道や剣道などの心身鍛練運動が行われますが、その「寒中にお灸をすえてはいけない」という俗説が古くから流布してました。なぜ寒中にお灸をすえてはいけないのかというと、この時期にお灸をすえると効き過ぎてしまって、寒中以外の時にお灸が効かなくなってしまうという、大変な根拠がこの俗説の支柱になっています。昭和の頃から平成の初めまで患者さんの中には、寒の30日の終わるまでを待って、お灸に来るという患者さんがいました。


「灸をしてはいけない日」

また、灸を忌む日というのがありました。つまり灸をすえてはいけない日というのがあるのです。どうしていけないのかというと、その理由は「年はやくとも身はやくな」といって、寅年生まれの人が自分の年に当たる寅の日、子年生まれの人がその生まれ年に当たる子の日に灸をやいてもよいが、己の日にやいてはいけない。己は身に通じて命の根源をやくことになるというのである。
やはりこれも昭和~平成の初め頃まで、患者さんの中には、暦を見て来訪する人がいました。これは今となっては過去の話です。


「灸百日せざれば効なし」と「灸は急に効く」

古くから「灸百日せざれば効なし」という言葉あります。これは病を灸によって治療するには、1度や2度灸をするとか、1日や2日灸をしただけで治せるものでなく、百日間は根気よく灸をしなくてはならないということです。
また「灸は急に効く」、即ち、灸は即座に効くという言葉があります。この二つの言葉は、矛盾しているのではないかと言うことになりますが、そういうわけではないのです。そもそも病気には急性と慢性とがあります。
 
「灸が急に効く」というのは、この急性症にたいしてお灸した場合であって、「灸百日せざれば効なし」というのは慢性症のときをいうのです。慢性症を治療するときは灸百日せよというくらいに根気よく永く続けて衰えている自然治癒力を高めてあげるということなのです。

灸術は体のどの部位の症状にも効果を期待できるものです。
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